いちずに、かじつ。やまがたフルーツ150周年記念ポータルサイト

桃は、白さの中にさっと刷毛ではいたようなピンクが差している。パールの粉をはたいたような和毛（にこげ）がきらきらして、全体が光に包まれている。一つ一つに害虫から守る袋がかけられていて、箱入り娘の和菓子のようでもある。

山形の農家の友人の家で、桃狩りを体験した。私は桃が大好きで、みずみずしく冷たく甘い桃を飽きるまで食べてみたいと思っていたところ、友人が招待してくれた。

細い枝についた桃は左手を添えて真下に引っ張る。太い枝の場合は枝に対して直角にひねる。実にも枝にも負担をかけない方法だと教わった。桃は、少しでも強く押すと、すぐに変色してしまうから、乳母日傘の赤ちゃんのように大切に扱う。出荷すると傷みは避けられないから、もぎたてが一番だ。指を滑らせると皮はしずしずと剥け、真っ白な実は、空気に触れるとみるみるうちにクリーム色から飴色に変わる。繊細な果物だ。

桃はかぶりついて食べるのが一番おいしい。そして、食べ進めるうち、部位によって味が変わる。最初は淡白で上品な甘み。舌を鳴らしなくなるほど甘い果汁が広がる。種の回りは酸味が強く野趣あふれる味だ。スーパーの日越しの、お尻が皺だらけの桃とは別物である。

その夜は、桃と生ハムの冷製パスタを頂いた。井上荒野さんの小説『キャベツ炒めに捧ぐ』に、このレシピがあるらしい。桃とパスタは意外にもよく合った。

桃源郷という言葉からも分かるように、桃は中国では不老長寿の天上の果物とされた。また、朝の果物は金と言われるが、桃の甘みは自然由来でビタミンも豊富、健康にも良い。ほてりを冷やす効果もある。何より、果物籠にこんもり盛られた桃を見ると、セザンヌの静物画のようで、豊かな気持ちになる。祖父母は亡くなる前、山形から贈ってもらった桃を食べ、天国にのぼったようだと言っていた。

機械化できない、気が遠くなるような手作業で桃作りをしている方たちに頭が下がる思いだった。