地域特性を生かす農業を受け継ぎ、未来につなぐ役割を
たきぐちファーム(天童市) 滝口征司さん
山形さくらんぼができるまで
「うちでは 紅さやか、佐藤錦、紅秀峰の順で収穫しています。やまがた紅王はまだ木が若く実がなりませんが、なるようになれば佐藤錦と紅秀峰の間になると思います。主に加工用や受粉のためにナポレオンもあります。さくらんぼの作業は、冬は枝の剪定などが、春は白い花が咲いたらマメコバチや毛ばたきによる受粉があります。そのあとは果実が多くなりすぎないよう、余分な果実を摘み取り(摘果)したり、ハウスにビニールをかけて実割れを防いだり、果実にまんべんなく着色させるため密着する葉を摘み取る(葉摘み)などの着色管理をしながら収穫して出荷します。6月と7月の収穫時が繁忙期で、それからお盆前までは何かと仕事がありますね。
美味しいさくらんぼをお届けするため、化学肥料を極力使わず、堆肥などの有機肥料の施用により、栄養供給と土壌改良を常に続けています。甘みと酸味のバランスが良い佐藤錦と、果肉が硬く歯応えがあり、糖度が高い紅秀峰はうちの自慢。贈答用を中心に、全国のお客様から、毎年うちのさくらんぼを楽しみに待っていただいていることは、とてもありがたいですね」
労働力確保の取り組み
贈答用として全国各地にファンの多いさくらんぼ。それは「赤い宝石」と呼ばれる見た目の美しさやおいしさはもちろんですが、手間がかかるものだからこそ重宝されるという側面もあります。
「山形県産さくらんぼのうち、生産量の7割を占めている佐藤錦の旬は6月中旬から2~3週間と短く、収穫から出荷までの作業が集中します。商品果率をいかに上げるかがカギ。この時期に労働力の確保をすることがとても重要です」と滝口さん。そのためにもたきぐちファームをはじめ県内農家では、さまざまな取り組みをしているといいます。
(滝口さんによると)「従業員のほかに親族や近所の方、毎年この時期お手伝いに来てくれる遠方の方など、総出で作業をしています。また近年ではJA全農山形と旅行会社のJTBさんとの連携による『アグリツアー』を当園でも行っています。他県からの旅行者に作業委託し、対価として賃金が支払われる仕組みです。ほかにも山形県によるアルバイトやボランティア、さくらんぼ産地サポーター企業の募集の取り組みの活用や、『JA無料職業紹介所』や1日農業バイト『daywork』で人材確保をしている農家さんもあると聞いています」
農業人口の減少や高齢化、集中する農作業が課題の中、全国の皆さまへ山形県のおいしいさくらんぼをお届けするため、県内の農家さんをはじめ各組織が一体となって連携を強化しています。
さくらんぼ農家のこれから
「さくらんぼの収穫の季節が終わっても、うちは桃、西洋なしなどほかの果樹や稲作と、受託作業に移行していきます。さくらんぼも収穫後の園地は消毒や草刈り、肥料を与えて、秋から冬は植え替えや雪かき、そして枝の剪定と1年中作業があります。従業員もいるので仕事を切らすことはできません。農業は1人でできるものではないので、従業員の定着やスキルアップが必須。農業だけでなくどの業種もそれは課題だと思いますが、自分が祖父や父の仕事を見て育ち、仕事を覚えていったように、これからの農業を担う人に伝えていきたいですね。
特にさくらんぼは山形県の産業の主力です。ひとつの農家だけでは地域産業を守っていくことはできないので、たくさんの人と協力が不可欠。例えば、アグリツアーの参加者の方からは『摘み取り、選別、箱詰めなど全部手作業で、さくらんぼの価格に納得しました』ということを知ってもらい、それをメディアから全国に発信してもらうことで農園の現状を知るきっかけになる可能性もあります。たきぐちファームは、そういった発信も大事な役割だと思っています」
人材の確保、天候に左右されやすい作業環境などの課題に向き合い、人と人とのつながりを大切にしながら農業と向き合い、情報発信にも尽力されている滝口さんの取り組みからは、農業の未来に対する熱い思いが伝わってきました。
たきぐちファーム
- 住所
- 山形県天童市乱川1606−3
山形県天童市乱川にある「たきぐちファーム」は、さくらんぼをはじめ桃やすもも、ラ・フランスにりんごなど果樹栽培と稲作、そして農作業受託事業を主に行う複合経営農家です。社長の滝口征司さんから、さくらんぼ栽培をはじめとした農業のお話を伺いました。